「祝われたのに、なぜか冷める」社員心理の正体。福利厚生が"押し付け"に変わる境界線。
2026/06/25

※ このコラムは、法人向けギフトサービス「BeeNii(ビーニー)」を運営する地元カンパニーのコラムです。弊社メンバー・Yさん(仮名)の実体験をもとに、代表の児玉による監修のもと、健康経営や福利厚生が"押し付け"になってしまう境界線と、その解決策についてお届けします。 ライター:山崎 / 体験談:Yさん / 監修:児玉
最近、多くの企業が取り組んでいる「健康経営」。ウォーキングイベントや健康食品の配布など、社員を想ってのはずの施策に、なぜか現場からは「正直、面倒くさい」「プライベートへの干渉だ」といった冷ややかな声が漏れてくることがあります。 会社としての善意が、なぜ社員にとっての「重荷」に変わってしまうのか。当社のメンバーであるYさんの実体験から、その境界線が見えてきました。
「頼んでいないお祝い」は、喜びよりプレッシャーが勝つ
Yさんは、過去の経験を振り返り、こんな本音を漏らしています。 「頼んでいないけどもらうと、返さなきゃいけないプレッシャーの方が強い。大人数でみんなの時間を割いて頼んでないことをしてくれるのは、喜びよりも『期待に応えなきゃいけないんだな』というプレッシャーが勝つから、早く帰りたいと思ってしまう。」(Yさん・談) これは単なる印象論ではなく、心理学の実験でも裏付けられている現象です。社会心理学者デニス・リーガンが1971年に発表した実験では、何かを無償で受け取った被験者は、受け取らなかった被験者よりも、その後の頼みごと(チケットの購入)に応じる割合が明確に高くなりました。さらに注目すべきは、相手への好感度が低くても、何かをもらった被験者は「お返しをしたい」という気持ちが好き嫌いの感情を超えて働き、結果的に高い割合で頼みごとに応じたという点です。 「善意」は、受け手の納得感(合意)がないまま提供されると、それは単なる「プレッシャー」や「ストレス」という副作用を生む劇薬になります。
それは「お祝い」ではなく、「お祝いする仕事」だった
Yさんは、SNSやLINEでも誕生日をあえて非公開にしていると言います。その理由は、「義務的なお祝いを誘発したくないから」です。 「誕生日を祝わないといけない、みたいなやつが嫌だから……。制度としてお祝いがある状態は、『お祝いする仕事』を受けている状態。仕事だからやっている、以上の何者でもないと感じてしまう。」(Yさん・談) これは「表彰制度」や「評価制度」が形骸化する典型的なパターンと同じ構造です。日経ビジネス電子版が2024年に読者を対象に実施したアンケートでは、9割弱が「人事部に不満がある」と回答し、不満の内容としては「評価制度」が58.1%でもっとも多く挙がりました。
さらに、Job総研(パーソルキャリア系列)が2023年に758人を対象に実施した調査では、会社の評価に不満を感じたことが「ある」と答えた人が全体の75.2%にのぼり、評価によって過去にモチベーションが低下した経験が「ある」と答えた人も78.7%と8割近くに達しました。その理由には「成果と報酬の不相応」や「評価基準の不透明さ」が関係していることも分かっています。
つまり、評価や称賛が「制度」として運用されるとき、その基準や運用に納得感が伴わなければ、8割近い人がモチベーションの低下を経験するという結果です。お祝いや健康施策が「会社の業務フロー(タスク)」として処理されていることが透けて見えた瞬間、社員は「自分は大切にされている」と感じるのではなく、「タスクを消化されている」と感じてしまいます。 義務感で行われる健康経営が、結果として社員を白けさせ、心理的距離を生んでしまうのは、そこに「個」への眼差しが欠けているからかもしれません。
「成果に関係ない自分」を見てもらえる心地よさ
一方で、Yさんが「心地よい」と感じる瞬間もあります。それは、仕事の成果とは全く関係ない、自分自身の変化に気づいてもらえた時です。 「服のことを言ってくれたり、お酒の話だったり。仕事の成果とは関係ないところで、個人として知られている状態はやっぱり心地いい。理屈とか利害じゃないところで見てもらえている方が、何倍も嬉しい。」(Yさん・談) これは「存在承認」という考え方そのものです。慶應義塾大学前野隆司研究室とパーソル総合研究所が共同開発した「はたらく人の幸せ・不幸せ診断」では、はたらく人の幸せをもたらす要因として「自己成長」「リフレッシュ」「チームワーク」「役割認識」「他者承認」「他者貢献」「自己裁量」の7つの因子を特定しています。ここで「成果」そのものは7因子に含まれておらず、それとは別に「他者承認」という、個人として認められる感覚が独立した幸福要因として位置づけられている点が重要です。
一方、同モデルを用いた2025年の最新調査(全国の就業者5,000人対象)では、就業者が最も重要視しているのは「リフレッシュ因子」であり、実際にはたらく幸せ実感との相関が強い「他者貢献因子」や「自己成長因子」は、本人の自覚以上に過小評価される傾向があることが分かっています。つまり、人は自分を幸せにしている要因に意外と無自覚であり、「他者から個人として認められること」の価値を見過ごしやすいということです。Yさんが「理屈とか利害じゃないところで見てもらえる方が、何倍も嬉しい」と語ったのは、まさにこの普段見過ごされがちな「他者承認」の心地よさだったのかもしれません。 意外かもしれませんが、健康経営の第一歩は「歩かせること」ではなく、こうした「存在の承認」にあるのではないでしょうか。
管理を「自動化」し、想いに「湿度」を戻す
多くの企業で健康経営や福利厚生が「作業」になってしまうのは、担当者が忙しすぎるからでもあります。リストを作り、期日を管理し、手配をする。その忙しさが「お祝いの心」から余裕を奪い、結果として定型文のような冷たい施策になってしまう。 これは決して大げさな話ではありません。パーソルグループの調査では、人事部門における業務の現状について、「人材採用」や「労務管理」が最も忙しく、約8割の人事担当者が忙しいと回答していることが分かっています。また別の調査では、事務職が1日のうち約3〜4割の時間をルーティン業務に費やしているという結果もあり、想像以上に時間を奪われている実態が明らかになっていると報告されています。組織文化や一人ひとりへの眼差しにもっと時間を使いたいと思っていても、現実には日々の定型業務がその時間を奪っているのです。
BeeNii(ビーニー)がご提案したいのは、事務的な管理や発送の代行をシステムに任せることで、担当者や上司の方には、その人の好きなものや、その人の近況に思いを馳せて、一言メッセージを添えてほしい、ということです。 「健康でいなさい」という命令ではなく、「あなたの誕生日を祝いたい」「あなたがいてくれて嬉しい」という存在の承認。そんな「湿度のある」コミュニケーションこそが、結果として社員のメンタルを整え、本当の意味での「健康な組織」を作っていくのだと、私たちは信じています。
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