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今日も来てくれた。それだけで、十分だと思うようになった。

2026/04/10

今日も来てくれた。それだけで、十分だと思うようになった。

〜 なぜ私が「組織の湿度」を研究し始めたのか 〜 「組織の湿度」研究 ブログシリーズ Vol.0 by 児玉光史(チームBeeNii) ※ このブログは「組織の湿度」研究シリーズの第0回です。創業者の体験談から始まるこの記事を起点に、Vol.1以降で「組織の湿度」という概念を深掘りしていきます。

初日に、来なかった

創業当初、求人媒体に求人を出して、面接をして、採用を決めて内定を出した。 出社当日の朝、その人は来なかった。何の連絡もなく。そして連絡も取れなかった。 当時、会社はまだ2人か3人だった。その頃の私には、それが本当につらかった。何日かずーっと落ち込んでいた記憶がある。 それ以来、内定を出した人が本当に初日に出社してくれるかどうか、いまだにドキドキする。何年経っても、何人採用しても、まったく慣れない。今いる社員についても、「明日は来てくれるだろうか、、、」と、ふと頭をよぎることがある。 来てくれた。今日も来てくれた。——それだけで、正直、ほっとする。

採用をやめなかった、それだけが誇れること

人を採ることに、ずっと積極的だった。面接をすると、その人がいろいろやってくれそうに見えてしまう。それで採用を決めてしまうことが多かった。 結果、フィットしない人も出た。既存の社員との間でハレーションが起きたこともある。尻拭いをすることになってしまった社員もいた。向いてない役割を任せることになってしまって苦しませたこともあった。辞めていった人の顔が頭に浮かんでくる。原因は全て私の判断ミスだったと思っている。 それでも採用はやめなかった。 苦しいときも、うまくいっていないときも、人の採用だけはなんとか続けた。その結果として、今マネージャーをやってくれているメンバーに巡り会えた。それが会社の安定につながっている。 唯一自分を褒められることがあるとすれば、採用をやめなかったことだ。それだけかもしれない。

「やりたいこと」を強いて、傷つけた

創業から10年くらいは、「やりたいこと原理主義」みたいな時期だった。 みんな、やりたいことがあるはずだ。それを見つけて、それを仕事や自分のスキルにしていくべきだ——そういう信念を持っていた時期だ。採用した人たちにも、「あなたのやりたいことは何か」を熱心に聞いた。 だが地方で会社をやっていると、そういう人ばかりが集まるわけではない。仕事は生活のためと割り切って、必ずしも仕事に強い思いを持っていない人もいる。それは悪いことでも何でもない。 地方とか都市とか関係なく、やりたいことを活かして仕事にする、なんて人は少数派ではないかと思うようにもなった。たしかに、私も住んでいる地区の自治会の仕事は全く気が進まなかった。 それがわかっていなかった。やりたいことを問い続けて、苦しい思いをさせてしまった人が、何人かいたと思う。もうしわけない。 地方で会社をやるということは、都市部のように「スキルがフィットしなければ採用しない」というモードではできない。特にやりたいことがあるわけでもない人も含め、なるべく多くの人が働ける場所を作ることが、地域で事業をすることの意味だと思っている。その人が活躍できる役割と仕事を、一緒に作っていく。そうありたいと思っている。

社長の「気にかけ方」が、人を傷つけていた

組織が少しずつ大きくなっていく過程でも、社員に直接指示を出し続けていた。小さい頃はそれしか方法がないので、それで回っていた。 ただし20人を超えたあたりから、受け取る側の意識は少し違っていたようだ。社長から直接「それは違う」と言われると、「この組織に自分の居場所はないのかもしれない」と感じてしまう人がいた。気持ちが塞いだり、それが遠因となり辞めていった人もいたのかもしれない。 近すぎると傷つける。では距離を置けばいいのか、と思って関わりを減らすと、今度は「自分はここにいていいのだろうか」と不安にさせてしまう。 また、全員と定期的に1on1をやっていた時期もある。ところがこれにも妙な現象がおこった。1on1をすると、辞める人が増える気がした。1on1で深く話すと、その人の「やりたいこと」を知ってしまう。そして「この会社でそれが実現できるのか」という問いが、自分の中にでてきてしまう。応援したくて話を聞いて、応援退職を増やしていた。まったくもって、なるべくしてなっている。そうなると組織の成長速度はゆるやかになってしまう。 自分の「気にかけ方」が、人を傷つけていたり、自分の首を絞めていた。そう気づいたのは、ずいぶん後になってからだった。

「仕事の指示」と「存在の承認」は、別物だ

試行錯誤の末に、一つのことに気づいた。 仕事の指示と、存在の承認は、まったく別のコミュニケーションだ。 私が得意なのは前者だ。事業を推進する。新しいことを考える。そこに向かってアクセルを踏む。それは私にしかできない役割だと思っているし、そこに集中することが会社の成長にもつながると信じている。 だが後者——「あなたはここにいていいんだ」と伝えること——は、仕事の指示とは別の話だ。そしてこれを私が直接やろうとすると、どうしても「社長からの評価」と混線してしまう。 解決策は二つあった。一つは役割の分担だ。うちにとあるメンバーが入ってくれた。彼女は人の気持ちを察知する能力が非常に高い。誰かが元気なさそうなとき、それをキャッチして動いてくれる。人事パトロールをしてくれていた。 また、1on1の役割もマネージャーに移した。私は推進することに集中できるようになった。 もう一つは、「仕事とは関係ないコミュニケーション」をすることだった。仕事を介さない承認の仕組みとでも表現しようか。 誕生日もしくは入社記念日に、ギフト(当社の「地元のギフト」だ)を贈ることにした。今年からは直筆のメッセージカードを自分で書いて渡している。時があまりにも汚くて辟易するが書いている。ただ「あなたがここにいることを、感謝している」という意識を持ってメッセージを書いている。 これで離職率が明確に下がったか、正直なところわからない。ただ、存在を承認する意識は育っていて、いろいろとスムーズになっている気はする。

一冊の本との出会い

2020年頃、『世界は贈与でできている』(近内悠太著)という本を読んだ。 その本に、影響を受けた。そこから芋づる式に、マルセル・モースの『贈与論』や、松村圭一郎氏の『うしろめたさの人類学』を読んだ。交換がメインの社会に、贈与が社会の潤滑油として、存在しているのか?そんな問いを持ちながら文化人類学という分野に、興味を持つようになった。 やりたいことがあるから、それをやるのではなく、慣習や儀式を通じても、人の行動や気持ちが形作られていくのか? 自分がやってきたことが、その言葉でようやく整理された気がした。

「9時5分に来る人」が教えてくれたこと

こんな経験がある。 うちの就業時間は9時から18時だ。ところが、9時5分や9時10分に出社してくるメンバーが多い時期があった。彼らの行動を観察していると、18時が終業時間なのに、遅刻した日は、18時5分や18時10分まで仕事をしていた。 8時間働こうとすること自体は否定するものでもないんだが、なぜか私はそれにイライラした。ただなぜイライラするのか、自分でもよくわからなかった。 考えた末に、ルールを変えた。「終わりは18時を絶対に守る。始まりは何時でもいい。ただし遅れた分だけ就業時間が短くなる」。それだけだ。 結果、9時5分や9時10分に来ていた人たちが、9時に来るようになった。私のイライラもなくなった。 「9時に来てください」と言ったわけでもなかったが、ちょっとしたルールを変えただけで行動が変わった。人の心に訴えたのではない。慣習の設計を変えただけだ。これが、文化人類学的なアプローチで組織を眺めることへの、私自身の最初の実感だったかもしれない。

飲み会がない代わりに、毎朝5分の「儀式」がある

当社には飲み会をする文化があまりない。社員のほとんどが車通勤なので。 ただ、その一緒に働く人がプライベートでどういう人なのかを少しでも知っている方が、仕事もしやすい。飲み会でやりとりされるような情報——家族の話、趣味の話、最近気になっていること——は、仕事の文脈とは関係なく、人と人の距離を縮める。 そこで始めたのが、毎朝9時からの「チェックイン」だ。全員が揃う9時に、3人グループで5分間、仕事と関係のない話をする。テーマは毎月変える。それだけだ。 飲み会の代わりになるかどうかはわからない。だが仕事を始める前の小さな儀式として機能している感覚はある。人の心に呼びかけるのではなく、場の設計を変える。慣習や儀式として組み込む。そういうアプローチの方が、自分には合っていると気づいてきた。

「組織の湿度」という概念が生まれた理由

感情に訴えるアプローチには限界がある、と思い始めていた。 「もっとコミュニケーションを取ろう」「お互いを尊重しよう」——そう言葉で伝えるよりも、チェックインという小さな儀式を作る方が、組織の空気は確実に変わる。誕生日にギフトを届けるという慣習を作れば、確実に全員に感謝の気持ちを伝えられる。 文化人類学が教えてくれたのは、「人の行動を変えたければ、文化や慣習を変えよ」という発想だ。 ならば、組織の文化や慣習を「測る」ことはできないか。感情や満足度ではなく、「どんな慣習が存在するか」という事実で、組織の状態を可視化できないか。 そこから生まれたのが「組織の湿度」という概念だ。

このブログで伝えたいこと

私は、組織を研究する学者でも、コンサルタントでもない。失敗しながら会社を経営している一人の経営者だ。 このブログシリーズでは、自分の体験と、文化人類学をはじめとする研究者たちの知見を組み合わせながら、「組織の居心地の良さ」を測る新しい概念を提案していく。 あなたの組織の「湿度」は、今何%だろうか。 Vol.1から、一緒に考えていこう。

参考文献

・近内悠太『世界は贈与でできている』ニューズピックス、2020年 ・マルセル・モース『贈与論』岩波文庫 ・松村圭一郎『うしろめたさの人類学』ミシマ社、2017年

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