あなたの会社の「湿度」は何%か?
2026/04/10

〜 なぜ今、組織の空気を「測る」必要があるのか 〜 「組織の湿度」研究 ブログシリーズ Vol.1 by 児玉光史(チームBeeNii) ※ このブログは「組織の湿度」研究シリーズの第1回です。Vol.0(創業ストーリー)から読むと、より理解が深まります。
「なんとなく」では、手が打てない
Vol.0で書いた失敗の多くは、振り返れば「気づくのが遅かった」という話だ。 社員が傷ついていたことに、後から気づいた。1on1が応援退職を生んでいたことに、何人か辞めてから気づいた。やりたいこと原理主義が苦しめていたことも、本人たちが去ってから気づいた。 気づいていれば、手が打てた。でも気づけなかった。 なぜか。組織の状態を「測っていなかった」からだ。 経営者仲間と話すと、よく出てくる言葉がある。「うちの会社、なんか空気が重いんですよね」「最近、社員が元気ない気がして」「雰囲気は悪くないと思うんですけど、なんか薄い感じがして」——。みんな、なんとなく感じている。でも言語化できない。数字にもできない。だから手が打てない。 「なんとなく」は、経営の言葉にならない。
既存の調査が捉えられないもの
では組織の状態を測る方法は何があるか。多くの企業が使うのが、エンゲージメント調査だ。 「仕事にやりがいを感じますか」「上司はあなたの話を聞いてくれますか」「この会社を友人に勧めたいと思いますか」——感情・満足度を問う形式だ。これ自体は悪くない。だが限界がある。 気持ちは揺れる。 調査した月に残業が多ければスコアが下がる。ボーナス直後なら上がる。先週上司に褒められたか、叱られたかでも変わる。感情は、その瞬間の状況に強く引っ張られる。 だから私は、感情ではなく事実を問いたいと思った。 「誕生日に会社からギフトが届くか」——これは事実だ。あるかないか、確認できる。「社内チャットに雑談チャンネルがあるか」——これも事実だ。「退職するとき、花束をもらえるか」——これも確認できる。 観察・確認できる文化的慣習の有無と頻度で、組織の状態を測る。これが「組織の湿度」というアプローチだ。
なぜ「湿度」という言葉なのか
「ドライな職場だよね」「うちはウェットな文化なんですよ」——日本語には、組織の空気感を湿度で表現する言葉がすでにある。だが「湿度」を意識的に測っている会社は、ほとんどない。 人間が快適に過ごせる室内湿度は40〜60%と言われる。それより低ければ乾燥して体に障り、それより高ければ蒸し暑くてカビが生える。組織も同じだ。 湿度が低すぎる組織——乾燥した組織——では、社員は「自分はここにいていいのだろうか」という不安を抱えながら働く。コミュニケーションが薄く、誰かが節目を迎えても何もない。やがて「静かに」心が離れていく。Vol.0で書いた「初日に来なかった社員」のことを思い出すと、あの頃のうちの組織はかなり乾燥していたと思う。 一方、湿度が高すぎる組織——過湿の組織——では、同調圧力が強くなる。「飲み会は2次会まで参加するのが当然」「有給を取るときは理由を話す」「上司より先に帰れない」——そういう不文律が増えていく。これは居心地が良さそうに見えて、実は窒息に近い状態だ。 適湿な組織は、その中間にある。慣習はあるが、強制ではない。承認はあるが、監視ではない。
「感情」ではなく「慣習」を見ることの意味
私がなぜ慣習に着目するようになったか。それは自分の失敗体験が教えてくれた。 「もっとコミュニケーションを取りましょう」と言葉で伝えても、何も変わらなかった。「お互いを尊重しましょう」と訴えても、空気は変わらなかった。でも、毎朝9時に3人で5分間チェックインをする、という小さな慣習を作ったとき、確かに何かが変わった。 「9時に来てください」と何度言っても変わらなかったことが、終業ルールを変えただけで変わった話は、Vol.0に書いた通りだ。 人の気持ちに訴えかけるアプローチには限界がある。でも慣習は設計できる。儀式は作れる。だとすれば、まず今の慣習を正確に把握することが、変化の出発点になる。 文化人類学者の松村圭一郎氏は、著書『うしろめたさの人類学』(ミシマ社)の中で、私たちが「あたりまえ」だと思っている日常の慣習こそが、その社会・集団の文化の正体だと論じている。組織の空気は、感情の集積ではなく、慣習の積み重ねによって作られる——この視点が、「組織の湿度」という概念の核心にある。
測ることで、初めて議論できる
私が組織の湿度を測るようになって気づいたことがある。 経営者と従業員では、同じ組織を全く違う湿度で感じている、ということだ。 私は「誕生日は毎年祝っている」「ギフトも送っている」と思っている。だが従業員の中に「自分の誕生日には何もなかった」と感じている人がいるかもしれない。私は「うちはコミュニケーションが活発だ」と思っている。でも新しく入った人には、「話しかけていい雰囲気かどうかわからない」と映っているかもしれない。 この「ズレ」を可視化することが、湿度調査の最大の目的だ。ズレがわかれば、対話できる。対話できれば、変えられる。
おわりに:問いを立てることから始まる
「測れないものは、変えられない」——経営の世界でよく言われる言葉だ。 組織の湿度も同じだ。「なんとなく空気が重い」という直感を、具体的な慣習の有無として言語化することで、初めて「どこに手を打つか」という議論が始まる。 あなたの組織の「湿度」は、今何%だろうか。 次回Vol.2では「湿度が高すぎる組織・低すぎる組織」——過湿と乾燥、それぞれの症状と危険サインを、具体的に見ていく。
参考文献
・松村圭一郎『うしろめたさの人類学』ミシマ社、2017年 ・松村圭一郎・中川理・石井美保『文化人類学の思考法』世界思想社、2019年 ・エドガー・H・シャイン、ピーター・シャイン『組織文化とリーダーシップ 原著第5版』白桃書房、2025年 ・エイミー・C・エドモンドソン『恐れのない組織』英治出版、2021年
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