組織にも、ヨガが必要だ
2026/04/27

〜 改善より先に、今の組織を認識するということ 〜 「組織の湿度」研究 ブログシリーズ Vol.5 by 児玉光史(チームBeeNii) ※ このブログは「組織の湿度」研究シリーズの第5回です。Vol.0(創業ストーリー)から読むと、より理解が深まります。
「存在の承認」と「組織の承認」
Vol.0から繰り返し書いてきたことがある。「存在の承認」だ。 誕生日にギフトを届ける。直筆のメッセージを書く。会社が、社員に向けて「あなたはここにいていい」と伝える行為。それが組織の湿度を支える。 だが今回、もう一つ大事なことに気づいた。 個人の存在を承認することと同じくらい、組織そのものの存在を承認することが必要なのではないか。 個人は、自分の体の状態をある程度無意識に把握している。体に異変があったとき、「いつもと違う」と感じられるのは、通常の状態を知っているからだ。それと比較することで、異変に気づき、対処できる。 組織は違う。ほとんどの場合、構成員は「うちの組織の通常状態」を把握していない。人事や経営者は気を配っているかもしれない。だが組織を構成するメンバー一人ひとりが、今の組織のありのままを認識しているかというと、そうではない。だから異変が起きても、気づくのが遅れる。予兆を感じることもできない。 もし組織の構成員全員が「うちの組織は今こういう状態だ」という認識を少しでも持てたなら、それ自体が組織を強くする。人事部だけでなく、メンバー全員がアンテナを持つ組織——それは、単に問題を早期発見できるだけでなく、組織への当事者意識そのものを育てる。 組織心理学者のカール・ワイクは「センスメイキング」という概念を提唱した。組織のメンバーが「今ここで何が起きているか」を共有し、腹落ちするプロセスこそが組織を機能させる、という考え方だ。正確な分析よりも、構成員が自分たちの状態を一緒に認識し意味づけすること自体に、組織を動かす力がある——これは、私が持っている仮説を後押ししてくれる。 「組織の承認」とは、こういうことだ。組織のありのままを、経営者と社員が一緒に認識して、噛み締める。改善のためでも、評価のためでもなく、ただ「今の自分たちはこうだ」と確かめる行為。これが、湿度チェッカーを作った理由の一つでもある。
今の組織を、みんなで認識する
経営者も社員も、常に「次に何をするか」「何を改善するか」に意識が向いている。それ自体は悪いことではない。だが、その姿勢が組織の文化や慣習に向かうと、大事なことが見えなくなっていく。 慣習がなぜ生まれたのか、誰も意識しなくなる。やっているのに、やっている意味が共有されていない。慣習がいつの間にか「こなすもの」になってしまう。 だから、立ち止まって「今の自分たちはこうだ」と認識する時間が必要だと思っている。 一番大事なのは、組織の成り立ちや文化を知ること、どうできたかに思いを馳せることだ。「なぜうちにはこの慣習があるのか」を改めて問うことで、組織がどういう経緯でここまで来たのかが見えてくる。文化は、その由来を知ることで初めて「自分たちのもの」になる。 一つ気づいていることがある。社長が思っているよりも、メンバーは今の慣習や今の組織のあり方に対して肯定的なことが多い。それを知ることで、経営者も少し肩の力が抜ける。 身体に例えると、こういうことだと思っている。筋トレは大事だ。組織を強くする、改善する、成長させる——それは欠かせない。でも身体はヨガやストレッチもやる。筋肉をほぐし、自分の体の今の状態を感じ、整える時間だ。 組織のヨガ。チェッカーをやる時間は、そういうものかもしれない。
チェッカーを社内でやってみた
少し前、うちの社員20人ほどにチェッカーを実際に答えてもらった。 作った本人として、正直なところ少し怖かった。自分が「やっている」と思っていることが、社員にどう届いているか——それが数字になって返ってくるのだから。 結果を見て、驚いたことがいくつかあった。 チェッカーの回答には4つの選択肢がある。「ある(理想的)」「ある(残念ながら)」「ない(理想的)」「ない(残念ながら)」だ。 驚いたのは、「忘年会・社員旅行がない(残念ながら)」と答えた人が少なからずいたことだ。うちには忘年会も社員旅行もない。強制参加のイベントを減らすことが良いと思っていたから、「ない(理想的)」と答える人が多いと想定していた。だが実際は違った。「あってほしい」と感じているメンバーが、一定数いた。 驚きと同時に、正直少し嬉しかった。「集まりたい」という気持ちが社員の中にあることが、数字として見えたからだ。社内報や雑談チャンネルへの期待を示した人もいた。聞かれなければ出てこなかったニーズが、ここで初めて見えた。
改善のためではなく、「話すきっかけ」として使う
チェッカーは、思い立ったときにやればいい。継続して毎年やることを否定しないが、それが条件ではない。1回やっても意味があるし、何回やっても意味がある。比較しなくても、今この瞬間の状態を認識すること自体に価値があるからだ。 チェッカーの目的は、改善ではなく、承認と認識だ。組織の現在地を、みんなで把握する。 仕事の場では何でも「改善・改革・次の施策」に向かいがちだ。でもチェッカーについては、会話をすることがゴールだと思っている。「忘年会、欲しいと思ってた人がいるんだね」「この慣習、ちゃんと届いてたんだ」——そういう会話が生まれること。それで十分だ。 文化人類学者のヴィクター・ターナーは「コミュニタス」という概念を提唱した。儀礼の「過渡期」——変化と変化の間にある時間——に、人々の間に生まれる平等で親密なつながりの感覚のことだ。「どこかに向かっている途中」ではなく、「今この間にいること」そのものに、共同体の核がある。 チェッカーに全員で答えて、結果を眺めて、話す。その時間は、組織の現在地をともに感じる時間だ。何かを変えなくても、その時間自体がすでに組織の湿度を動かしている。
おわりに:肩肘張らず、わいわいやればいい
チェッカーをやる時間は、KPIにならない。数字が取れない。社員にアンケートを取れば労働時間も減る。だから「やる理由」を問われると、少し困る。 でも、楽しいんですよね。 「社員旅行、欲しいと思ってた人がいたんだ」「この慣習、ちゃんと届いてたんだ」——そういう発見が、素直に嬉しい。自分の組織のことを、改めて知る感覚。数字を追いかける時間とは全然違う、静かな楽しさがある。 肩肘張らずにやればいいと思っている。忘年会のついでに、ランチのついでに、わいわいしながら答えてみる。結果を見て「へえ」と言い合う。それくらいの温度感でちょうどいい。 チェッカーは、話題のきっかけだ。「やらなきゃいけない組織サーベイ」ではなく、「たまにやりたくなるもの」であってほしい。組織の現在地を、みんなで確かめる時間として。
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